今回の記事は、『幸せになる勇気』の紹介をします。
フロイト、ユングと並んで心理学の三大巨頭とされているアルフレッド・アドラー。アドラー心理学の入門書である『嫌われる勇気』の続編として、2016年に発売された本です。
著者曰く、『嫌われる勇気』が地図ならば、『幸せになる勇気』はコンパスとのこと。
より、具体的な道筋を示してくれる一冊です。
前作の『嫌われる勇気』を読んでいない方は、そちらを先に読むことを勧めます。
- 『嫌われる勇気』を読んだ人
- アドラー心理学の実践的な面を学びたい人
- 幸せになりたい人
概要
前作の『嫌われる勇気』の続編であり、完結編。
前作でアドラーの教えに感銘を受けた青年は、図書館司書を辞めて教師になります。
しかしながら、教師になった青年は「アドラー心理学は、実生活では何の役にも立たず理想論でしかない」と怒りながら哲人のもとを訪ねるところから始まります。
前作に比べ、実践的な話が多いです。具体的な他者との接し方や、教育上での重要な点などが織り込まれています。
青年の反論も、前作以上に勢いを増しています。怒り狂った青年がふたたびアドラー心理学を受け入れられるのかどうかも注目です。

『嫌われる勇気』と同じく、哲人と青年の対話形式で進んでいくので、非常に読みやすいです!
この本を読むメリット
教育方法がわかる
アドラー心理学では、教育、指導、援助といった類のものの目標は”自立”としています。ここでいう自立とは、自らの手で自らの価値を決定、認識すること。
この自立を促すためには”尊敬”が必要です。他人のありのままを見る、その人そのものに価値を置くことで、相手が自分の価値を認識できるようになる。
教育に限らず、あらゆる対人関係は相手を尊敬し、尊敬とは何かを示し、尊敬を学んでもらうこととしています。
叱ってはいけない
なにか悪いことをした人は、そもそもそれが悪いことだと知らない可能性がある。その場合は教える必要がある。何かを教えるにあたり、そこに叱責の言葉はいらないとしています。
何かしらの問題行動は叱られることまで含まれます。叱られることで自分は特別な存在であると証明できるからです。
これはよくある話ですね。正攻法でうまくいかない場合、悪いことをして叱られることで、自分の存在価値を確かめようとする。叱ってしまうと相手の思うつぼです。好き子にちょっかいを出す男子小学生みたいなものでしょうか。
また、これは個人的に新しい発見でしたが、「叱る」という行為は楽をしている行為だということ。
コミュニケーションの目的は伝えることではなく、合意の形成。言葉で丁寧にコミュニケーションをとるのは時間と労力がかかるため、手っ取り早い「怒り」や「叱責」によって合意を図ろうとする。これでは、到底お互いの信頼を得られるはずもなく、自立や尊敬にも程遠いものになってしまいます。
褒めてはいけない
アドラー心理学では、褒めることも否定します。
褒めることによって、褒められることを目的とした”競争”が生まれるからです。共同体は褒賞を目的とした競争原理に支配されてしまう。
アドラー心理学の提唱する”横の関係”は、学業の成績や仕事の成果など関係ない、すべての人が対等な”協力原理”によってうまれる。
さらに、褒められることでしか幸せを実感できなくなると、いつまでも褒められることを求めるようになります。
それを防ぐために、他者からの承認を求めるのではなく、自らの意思で自らの価値を決める、「自立」が求められることになる。
自らの価値を自らで決めるためには、ありのままでいることを受け入れる、「普通であることの勇気」が求められるのです。
とは言っても、やはり人間褒められると嬉しいものです。自分が褒めるのを辞めたとしても、相手が褒めるのを辞めてくれないと、自分はいつまでも褒められることの快感から抜け出せられない…。この思考が全人類共通にならないと難しいのではないか、と読みながら思ったものでした。
幸せを実感する方法を学べる
幸せを実感できないのは人生のタスク(仕事のタスク、交友のタスク、愛のタスク)を回避していることにあります。
前作『嫌われる勇気』の中で「すべての悩みは対人関係の悩みである」とされていましたが、今作では「すべての喜びもまた、対人関係の喜びである」と幸福の定義がされています。
そして、すべての議論は”愛”の議論に集約されます。
人はみな”愛される技術”ではなく、能動的な”愛する技術”を磨くべきだと説きます。
ここらへんの話は、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』でも述べられていました。
人々はみな幸福になることを願って生きている。そのためには、対人関係に踏み出す必要がある。全ての喜びが対人関係の喜びだからです。だからこそ、人生のタスクに踏み出していく必要があると。
3つのタスクの根底に流れているものを見ると、すべては愛の議論に集約されます。
- 仕事のタスク:利害関係に基づく、利己的な”自分の幸せ”が根底ある
- 交友のタスク:利他的な無条件の信頼を寄せて、”相手の幸せ”が根底にある
- 愛のタスク:”わたしたちの幸せ”が根底にある
自己中心性から抜け出し、人生の主語を”わたし”から”わたしたち”へ変えていく必要があると。そして、そこをスタートにふたりからはじまった愛は、共同体全体に広まっていくとしています。
まずは自らが他者を愛することで、自己中心性から解放され、自立を成しえて、共同体感覚に結び付く。”わたしたち”を主語にするような愛の関係を結ぶことができれば、自ずとただ生きているだけで貢献しあえるような関係性を実感できると説きます。
他者を愛する勇気、すなわちそれが”幸せになる勇気”として締めくくられます。
まとめ
前作に引き続き、哲人と青年の対話形式で描かれるので読みやすい本です。
しかしながら、いろいろとおもうところがあるのも事実。
例えば、褒めることを否定するところ。ここは自分が褒めることをしないのはもちろん、人から褒められた場合も、喜んではいけないのだろうか。
さらに、他人を無条件に信じる。これも頭ではわかっていても、すぐに実践するのはなかなか難しいです。現代社会には、自分をだまそうとしてくる人も数多くいます。。自分を守るためにも、多少なりとも相手を疑う気持ちを残しておいたほうがいいのではないかとも思ってしまいます。
こう思ってしまうということは、まだまだ私はアドラー心理学の教えに到達していないのでしょうか(笑)。
何はともあれ、アドラー心理学の教えはほんとうに度肝を抜かれるような新しい発見ばかりです。
『嫌われる勇気』とセットで読んでみてください!
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