超激熱漫画を紹介する記事。今回は、魚豊氏の『チ。-地球の運動について-』という漫画を紹介します。
2021年のマンガ大賞第2位にも選ばれている作品です。

マンガ大賞、過去には『ちはやふる』や『ゴールデンカムイ』が大賞に選ばれています!
2021年10月現在では5巻まで発売されており、「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて絶賛連載中の作品です。
ここから先は4巻までの内容で、一部ネタバレを含みます。(完全なネタバレではありません)
あらすじ
時は15世紀の某国。ここはC教が国を統治しており、宗教的にも科学的にも天動説が信じられています。
そんな時代に地動説の証明に向けて、時の権力と闘いながらも真実を求めて奔走するものがたりです。
この漫画のここが面白い!
意志が繋がれていく
史実もこの通りですが、地動説が提唱されてから実際に認められるようになるまでには300年くらいの開きがあります。
当然一人だけの意志で地動説が立証されてきたわけではありません。
間違った観測方法や失敗した研究をもとに、新しい仮説を打ち立てて地動説の立証に臨んできたわけです。
この漫画はそれを表すかのように、主人公が変わっていきます。
一人目の主人公、ラファウという12歳の少年。
合理的な生き方を好むラファウでしたが、地動説に出会いその美しさに感動します。
でも、不正解は無意味を意味しません。
魚豊『チ。ー地球の運動についてー』小学館 2020
上記の言葉は、一人目の主人公ラファウが死に際に放った一言。
彼の人生的に見れば、地動説を信じて死ぬのは正解とは言えないかもしれませんが、感動を生き残すと言って地動説の研究資料の場所を言わずに自ら毒を飲んで自殺します。
ソクラテスを彷彿とさせるような描写です。
そのラファウが残した資料は10年後にまた別の人物へと引き継がれます。
今はバデーニとオクジーという二人が主人公。
今後、主人公が変わっていくことが予想されます!
以下の言葉は、天動説の研究に人生をかけてきた学者が、地動説を認めざるを得ないときのやり取り。
積み重ねた研究を一瞬で否定する力があって、個人の都合や信念を軽く超えて、究極に無慈悲でそれ故に平等な、そんなものがあるとしたら、それをなんと言うと思いますか?
魚豊『チ。ー地球の運動についてー』小学館 2021
ーそれは…真理だ。
確かにこの学者の説は間違っていたかもしれませんが、その研究の過程や観測結果が無駄になるわけではありません。
それを理解できたとしても、今までの人生をかけた研究が間違っていたと分かった瞬間に、それを真理だと言って諦めきれるでしょうか。
そんな何人もの偉人たちの努力のうえで、今の世界が成り立っていると思うと胸が熱くなります!
圧倒的タイトル
このタイトル、なかなか衝撃的ではないでしょうか。「チ」という一文字のメインタイトルに、「地球の運動について」というサブタイトル。(メインかサブかは私の独断です。もしかしたらすべてメインタイトルかもしれません。)
この「チ」というカタカナ一文字のタイトルは4巻時点で3つの意味があると推測されます。
地:地動説や地球の地
知:何かを知りたいという好奇心や知識
血:痛み、拷問や争い
この漫画では、二人目の主人公が今の世界を変えるためには「知」が必要であると述べます。
その一方で、異端審問官(敵役)が今の世界を維持するためには「血」が必要だとしています。
立場的にも思想的にも相容れない二人の関係。この後どうなっていくのか気になります!
自分の教養知識が増える
この漫画のテーマは地動説、及びそれに付随する宇宙観です。
宇宙観を描くためには、宗教的な知識やその当時の時代背景も描かなくてはなりません。
この漫画では読んでいるだけでそういった過去の時代背景がありありと浮かんできます。
創作なので、多少の脚色が加えられていると思います。
それを加味しても、基礎的な知識を、漫画を読みながら学べるという点においてこれ以上のものはなかなか見当たりません。
個人的に一番意外なのは、地動説を唱えている人が、みな宗教(神様)を信仰していないわけではないということ。
物語の中には、神様が作った世の中だからもっと美しいものであるとしている人たちもいます。
神を信じているからこそ地動説を唱えているケースもある。
これは意外な発見でした。史実上の人たちで、地動説を唱えながら処罰された人たちも、もしかしたら神を信じていたのかもしれません。
ここに、宗教との関わり方の難しさがあるのでしょう。
自分の知識が増えていくことも非常に面白いです。
以下に史実をもとにした流れを簡単にまとめてみたのでそちらもご覧ください。
もっと面白くなる!史実を紹介!
この漫画は史実をもとに描かれていると思われます。
漫画が史実通りに進んでいくかは分かりませんが、過去の提唱者の人物名はそのまま使用されています。
簡単ではありますが、漫画に出てきた人物名や用語含め、天動説と地動説の証明までの流れをまとめてみました。
天動説
宇宙の中心には地球があり、地球の周りを太陽や他の星が回っているとする説。
地球を中心にするという解釈は理解しやすく、神が創造したこの世界の中心に人間が住んでいるという神学的側面との相性も良かったです。
しかしながら、地動説と宗教的対立が必ずしもこの漫画で描かれているかのような争いであったかどうかは疑わしく、聖書にも天動説を直接的な表現とする記載はありません。
地動説を唱え、観測していた学者の中にも、聖職者がいたことを忘れてはならないでしょう。
惑星
天動説では、太陽と恒星はみな規則正しく動いているように見えましたが、当時知られていた惑星(水星、金星、火星、木星、土星)は不規則に動くように見えていました。
今では地動説が当たり前に浸透しているので、太陽を中心として回っている他の惑星も、地球から見ると不規則な動きをしているように見えてしまうのは理解できます。
しかし、当時は地球が中心だと考えられていたので、どうしても不規則なように見えてしまうのです。
「惑星(planet)」という言葉はギリシャ語で”放浪者”を意味する”プラネーテス”という言葉から来ています。

天動説の名残が今でも言葉として残っていると感慨深いものがありますね!
アリストテレス
古代ギリシャの哲学者(前384~前322)。「万学の祖」と言われています。簡単に言えば超天才です。
自然学や倫理学といった学問を体系的にまとめ、現在の学問の基礎を築いた人物です。
そのアリストテレスが天動説を支持していたとされています。
超天才アリストテレスが天動説を支持していたことが地動説が受け入れられなかったことの要因の一つだとも言われています。
その当時で2000年前の人のいうことをそのまま信じているというのも理解が難しい話ですが、それほどアリストテレスへの信仰がすさまじかったということです。
プトレマイオス
紀元前200年ごろの天文学者。プトレマイオス的宇宙観という言葉でよく出てきます。
天動説では、どうしても惑星の動きが上手く説明できませんでした。
彼の天動説では、惑星の動きを周転円という新たな動きをもって説明しています。
調べてもらえれば分かりますが、地球を中心とした宇宙なので惑星の動きのこじ付け感がすごいですし、確かにその説明なら辻褄は合うのかもしれませんが、美しいとは思えません。
円に円を重ねて惑星の動きを説明しています。もうごっちゃごちゃです…。
ですが、この漫画でもよく出てくるプトレマイオス的宇宙観が長い間信じられていました。
1巻の最初にも出てきますが、確かにこれでも理論上(当時の観測範囲内において)成り立つのかもしれませんが、シンプルで美しいとは思えない。

そんな美しいとは思えないという心理的側面が地動説への第一歩かもしれません!
地動説
地球ではなく、太陽を中心に回っているとする考え方。現在は地動説が証明されている。
アリスタルコス
紀元前250年ごろの古代ギリシャの天文学者、数学者。この世で初めて太陽中心の地動説を唱えたとされています。
しかし、彼の意見は批判され全く受け入れられることなく、1500年近く忘れ去られます。
- 地球が動いているはずなのに、強風を感じることもなく、とても動いているとは思えない
- 太陽中心であるならば、なぜ世の中の物体は地球の中心に向かって落ちてくるのか説明がつかない
一つ目に関しては、地球上のもの(空気も大気も地面も)すべてが一緒に動いているから気付きません。
二つ目に関しては、重力理論(後述します)の発見により、地球に近い物体は地球の重力に引っ張られ、惑星はより質量の大きい太陽の重力によって太陽系の中につなぎ留められていることが分かっています。
その当時の科学的技術では証明できない点が多く、感覚的に自分たちがいる地球が動いていることが受け入れられない点も相まって、しばらくの間、アリスタルコスの地動説は忘れ去られてしまいます。

確かに相手ではなく自分が動いているとは思えないかも…。
ニコラウス・コペルニクス
1473~1543年。ポーランドの天文学者。
『天球の回転について』という本を出版し、天動説ではなく地動説を唱えました。
アリスタルコス以降、有力な地動説を唱えた学者として出てきます。
しかしながら、プトレマイオスモデルを超えるほどの観測結果を見出すことができず、またしても忘れられてしまいます。
今までの概念が覆されることを「コペルニクス的転回」と呼ぶことも、天動説ではなく地動説を唱えたコペルニクスから来ています。
ティコ・ブラーエ
1546~1601年。デンマークの貴族に生まれます。
彼の最大の功績は天体観測の精度をこれまで以上に高めたことです。
デンマーク王から資金提供を受け建設された「ウラニボリ天文台」という場所で観測を行います。
天の城と呼ばれたその場所は非常に豪華な作りで、数多くの客人が招かれ続けていたようです。
彼の宇宙観はプトレマイオスとコペルニクスの宇宙観の折衷案でした。
すべての惑星は太陽のまわりを回っているが、太陽は地球のまわりを回っているというものです。
あくまでも、宇宙の中心は地球です。でないと、どうしても物体が地球の中心に向かって落ちていくことが説明できなかったからだと言われています。

また新しい説が出てきましたね!惑星が太陽のまわりを回っている点において、一歩進んだ感じでしょうか。
ヨハネス・ケプラー
1571~1630年。ドイツ(当時は神聖ローマ帝国)の天文学者。
上述のティコ・ブラーエとともに研究をおこないます。
とはいえ、ティコは自分一人の代表作として研究結果を世に出すことを夢見ていたそうで、ただの田舎者であるケプラーを共同研究者と認めていたかは疑問が残ります。
ケプラーは身分の低い家庭に生まれます。
幼少期の家庭環境からか、自分に自信がなく不安症な面もあったようです。

個人的には、ティコ・ブラーエがバデーニのモデルで、ケプラーがオクジーのモデルなのではないかと思っています!
ケプラーはティコの死後、彼の観測結果をもとに研究を続け、天体の運動を示したケプラーの法則を発見します。
- 惑星は、太陽の(真円ではなく)楕円軌道上を動く
- 惑星と太陽を結ぶ線分が同じ時間に描く面積は等しい(→惑星が太陽に接近した時は速く動き、離れた時はゆっくり動く)
- 惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する
ここでは、4巻までに出てくる第一の法則のについて紹介します。
神が創造したこの世界は完璧なものであり、完璧な運動は真円だと考えられていました。
しかし真円だとするとどうしても計算結果が合わない…。
そんな時に出てきたケプラーは、その固定観念を打ち破り惑星運動は真円ではなく、楕円軌道を描くことを発見しました。
さらにその中心に太陽があるのではなく、少しずれた位置に太陽があることも発見しています。
約2000年近く真円以外の曲線運動が考えられなかった点において、ケプラーのこの発見の功績は大きいものです。

漫画では、4巻でバデーニが壁に掛けられているネックレスをみて、楕円運動を発見していますね!
ガリレオ・ガリレイ
1564~1642年。イタリアに生まれます。
近代科学の父とも呼ばれるガリレオ・ガリレイは数学的な手法や、仮設をもとに実験するといった「科学」の手法を確立させました。
天文学において、彼の大きな功績は、望遠鏡を使った観測でしょう。
望遠鏡自体はオランダの眼鏡職人が発明しましたが、ガリレオ・ガリレイはその望遠鏡を見事な装置に変えました。
競合する望遠鏡の倍率は10倍ほどだったようですが、ガリレオが製作した望遠鏡は60倍でした。
彼がその望遠鏡を空に向けてのぞいたとき、天動説は大きく後退することになります。
- 月のクレーター
- 太陽の黒点の存在
- 木星の衛星
- 金星の満ち欠け
①と②は天体が完全円ではないことが証明されます。これはプトレマイオス的宇宙観の天体は完全円だとする説に、真っ向から対立するものです。
③は、今まで地球の衛星である月の他には衛星というものを見たことある人はいませんでした。木星が衛星を持つということは、すべての天体が地球のまわりを回っているわけではないことを示します。
④に関して、太陽中心の地動説であれば、金星の満ち欠けを見ることができます。しかしながら、望遠鏡が発明されるまでは誰も満ち欠けを確認することができませんでした。

金星の満ち欠けは漫画でも出てきますね。望遠鏡を使用している描写は出てきませんが、視力の高さをうかがえる描写は出てきます。
しかしながら、ガリレオは教会から有罪判決を受けます。科学的な観測結果が、宗教上のイデオロギーにまたしても勝てませんでした。
有罪判決を受けた時に「それでも地球は動く」と放った逸話でも有名です。
アイザック・ニュートン
1642~1727年。イギリスの数学者であり、哲学者であり、天文学者でもあります。
地動説はこのニュートンの登場により疑いのないものになります。
ニュートンはその人生の中で様々な功績を残しますが、天文学的に大きな功績は「万有引力の法則」でしょう。
これによって、リンゴは地球に向かって落ちてくるのに月は地球に向かって落ちてこないことに意味が分かります。
月は外側に働く遠心力と、地球の引力の二つの関係で地球のまわりを回っているだけなのです。これは惑星と太陽の関係でも同じことです。
万有引力で、すべての物体に引力があるのであれば、どうして我々人間のまわりをリンゴは回らないのでしょうか。
どうして魔法使いのように何かを引き付けたりできないのでしょうか。
答えは簡単です。地球の引力が強すぎるからです。引力は質量に応じるので、地球上で一番質量が大きいのはもちろん地球です。
なので、地球上ではすべての物体が地球の中心に向かっていくわけです。
ニュートンの万有引力の発見により、今まで特別視されてきた天界も地球上と同じ理論で成り立つことが分かります。
これにより、地球の中心に向かって物体が落ちていくことが、宇宙の中心が地球である理由ではなくなったのです。
こうして地動説が疑いのないものになりました。
マンガワンで無料で読める
『チ。ー地球の運動についてー』は「マンガワン」というアプリで無料で読むことができます。
私はマンガワンで最初読んでいましたが、面白すぎたので単行本を全部買いました!(笑)

まとめ
宇宙論に限った話ではないですが、人類を進歩させてきたのは技術力とかではなく、人の純粋な好奇心かもしれません。
しかし、人によって進歩が止まることも事実。中世のキリスト教社会で多くの文明が衰退したともいわれています。
多くの偉人たちの純粋な好奇心や真実を追い求める努力により、今の世界が解明されていると思うと胸が熱くなります。
この漫画では、そんな激アツ展開がひたすら続きます。
地動説の流れが分からなくても楽しく読めます。(もちろん分かっていた方が面白くなるので、この記事に遊びに来て下さい!)
ぜひ一度読んでみて下さい!
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